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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)14736号 判決 1986年1月30日

原告

藤田光一

被告

国際興業株式会社

主文

被告は、原告に対し一七三二万二六四四円及びこれに対する昭和六〇年二月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し二四四二万〇五二〇円及びこれに対する昭和六〇年二月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  右第1項について仮執行宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求原因

1  原告(昭和四九年一〇月九日生)は、昭和五六年四月二四日午後二時五六分頃、埼玉県川口市大字蓮沼三〇九番一先の車道幅員六・六メートルの道路横断歩道上を、青色信号にしたがい新郷農業協同組合側より横断中、訴外大川戸富雄の運転する被告所有の定期バス(車両番号埼二二い九三六)が川口方面より草加方面に進行し、前記横断歩道上において、原告と衝突し、原告に対し左足挫滅創、左足第一ないし第四指切断の傷害を負わせた。

2  被告は、前記バスを所有し、これを定期バスとして運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、原告が本件事故により被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告は、本件事故により、次のような損害を被つた。

(一) 治療費 二三九万五六一一円

原告は、本件事故により医療法人社団厚生会埼玉厚生病院に昭和五六年四月二四日から同年五月一日まで入院、同年六月三〇日から同年九月三日まで通院して治療を受け、日大板橋病院に昭和五六年五月一日から同年七月二三日まで入院、同年八月三日から昭和五九年四月二六日まで通院して治療を受けたほか、川口市民病院に昭和五七年三月一日から昭和五八年九月五日まで通院して治療を受け、その間治療費として合計二三九万五六一一円を支出した

(二) 付添寝具料 二万〇五〇〇円

原告は、日大板橋病院に入院中付添寝具料として二万〇五〇〇円を支出した。

(三) 通院時車両駐車代 四三四五円

原告は、日大板橋病院に通院中車両代として四三四五円を支出した。

(四) 付添費 三七万二五〇〇円

原告の母藤田光子は、原告が幼く、かつ重傷であつたため入通院期間中付添つたが、その費用としては次のとおり合計三七万二五〇〇円が相当である。

(1) 入院付添費として、三一万八五〇〇円(三五〇〇円×九一日)

(2) 通院付添費として、五万四〇〇〇円(一五〇〇円×三六日)

(五) 入費雑費 九万一〇〇〇円

入院中の雑費として九一日間一日一〇〇〇円が相当である。

(六) 慰藉料 六八〇万円

原告の入通院期間、後遺障害の程度(八級と認定)等諸般の事情を考慮すれば、原告の慰藉料としては六八〇万円が相当である。

(七) 逸失利益 二一〇〇万一八二〇円

原告は、本件事故による傷害により後遺障害八級の認定を受けたので、就労可能年数五七年、労働能力喪失率四五パーセント、年収男子労働者学歴計によると、次の計算のとおり二一〇〇万一八二〇円となる。

379万5200円×0.45×12.2973=2100万1820円

(八) 靴注文費 一一八万五五〇〇円

原告は、左足第一ないし第四指切断の傷害を負つたため、特別注文による靴を使用して既に二二万七五〇〇円を支出したほか、将来も年間二足の靴を必要とし、一年間五万円の支出が見込まれるので、これを原告の平均余命六五年をもつて計算すると、次のとおり将来の靴注文費として九五万八〇〇〇円を要することになる。

5万円×19.160=95万8000円

(九) 将来の治療費 一〇〇万円

原告の後遺障害は既に固定しているが、将来も歩行によつて化膿したり骨が突出したりするため定期的に治療を要することになるところ、これに要する治療費を予測することは困難であるが、少なくとも一〇〇万円を下ることはないものと判断される。

(一〇) 弁護士費用 一〇〇万円

原告は、本訴の提起と追行を原告代理人に委任し、その費用として一〇〇万円を支払つた。

(一一) 損害のてん補 九四五万〇七五六円

原告は、本件事故により被つた損害のてん補として被告から九四五万〇七五六円の支払を受けた。

4  以上のとおり、原告の前記3の(一)ないし(一〇)の損害合計は三三八七万一二七六円であるところ、これについて前記3の(一一)のとおり九四五万〇七五六円の支払を受けたので、原告は、被告に対し右残損害二四四二万〇五二〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年二月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の(一)の事実のうち、原告が埼玉厚生病院及び日大板橋病院に入通院し、治療費として合計二三七万八五五〇円を支出したことは認めるが、その余の事実は不知。

同(二)の事実は認める。

同(三)の事実は認める。

同(四)の事実は不知。

同(五)の事実は不知。

同(六)の事実のうち、原告の後遺障害について八級の認定があつたことは認めるが、その余は不知。

同(七)の事実は不知。

同(八)の事実のうち、原告が特別注文の靴の使用のため既に二二万七五〇〇円を支出したことは認めるが、その余の事実は不知。

同(九)の事実は不知。

同(一〇)の事実は不知。

同(一一)の事実は認める。

4  同4の主張は争う。

三  被告の主張

1  訴外大川戸富雄は、本件事故現場交差点を青色信号にしたがい江戸袋方面から草加方面に右折進行する際、横断歩道脇の歩道上に佇立している原告を約一二・八メートル前方に発見したものの、原告が横断する様子を示さなかつたことから時速約二〇キロメートルの速度で走行したところ、原告が突然走つて横断したため、これに衝突するに至つたものである。

右のように本件事故の発生には原告の過失も関与しているのであるから、原告の損害賠償額の算定につきこれを斟酌すべきである。

2  原告は、本件事故により、左足関節の機能障害(二級七号)と左足指第一ないし第四指切断(九級)の後遺障害により併合八級と認定されている。

しかしながら、原告の左足関節の運動領域は、後遺障害意見書によれば、背屈一〇度、底屈四五度であつて、健康な人の足関節が各二〇度五五度であるのと比較してその運動領域制度は四分の一を僅かに上回る程度であつて、原告が若年であつて回復の可能性も否定しがたいことや左足指第一ないし第四指切断については靴型装具の着用によつて相当程度カバー可能であることを考慮すると、原告の右後遺障害による労働能力喪失割合を四五パーセントとするのは相当でない。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがないから、被告は、自賠法三条により原告が本件事故によつて被つた損害を賠償する責任がある。

二  よつて、原告の損害について判断する。

1  治療費 二三九万五六一一円

原告が本件事故による傷害の治療のため埼玉厚生病院及び日大板橋病院にその主張の期間入通院し、その治療費として合計二三七万八五五〇円を支出したことは当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いない甲第二号証、同第三号証の一ないし一四の記載によれば、原告は、右病院のほか川口市民病院にも一七日間通院して治療を受け、これらの病院の治療費として、原告の主張する二三九万五六一一円を下回らない額の支出をしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  付添寝具料 二万〇五〇〇円

右は付添寝具料の支出については当事者間に争いないので、相当損害と認める。

3  通院時車両駐車代 四三四五円

右通院時車両駐車代の支出については当事者間に争いないので、相当損害と認める。

4  付添費 三二万七〇〇〇円

原告は、埼玉厚生病院のほか日大板橋病院、川口市民病院に九一日間入院、三六日間通院したことは前記のとおりであるところ、弁論の全趣旨によると、原告は当時小学校低学年であつたうえ歩行が不自由であつたため、原告の母が入通院に付添つたことが認められるので、これによる損害は、その入院が昭和五六年であつたこと等に鑑み、入院一日につき三〇〇〇円、通院一日につき一五〇〇円と認めるのが相当である。

5  入院雑費 九万一〇〇〇円

原告が九一日間入院したことは前記のとおりであるところ、経験則によれば、右入院期間中一日一〇〇〇円程度の雑費を支出したものと推認することができるので、これを相当損害と認める。

6  慰藉料 五二〇万円

原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後記の後遺障害の程度その他諸般の事情を総合勘案すれば、原告の慰藉料は五二〇万円とするのが相当である。

7  逸失利益 一六九三万二六六四円

原告が本件事故による傷害により後遺障害八級の認定を受けたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いない乙第五ないし第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第八号証の各記載に原告法定代理人藤田光子尋問の結果を総合し、経験則に鑑みれば、原告には左足関節の機能障害と左足指第一ないし第四指切断の後遺障害が残つているものの現在のところ骨の発育不全が認められず、特殊の靴を装着すれば学校においてもマラソンや鉄棒をすることができる程度に至つているほか、現在小学五年生であるため、将来関節機能障害が軽減することもありうるし、また、学業を終えて就職する際には自己の身体状況に適した職業を選択するなどして収入の減少をできるかぎり少なくすることも可能であることが推認されるから、原告は、稼働可能と考えられる満一八歳から満六七歳までの四九年間を通じて、その稼働能力を四〇パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そして、昭和五七年度のセンサスによれば産業計企業規模計・学歴計の男子労働者の年間平均給与額は三七九万五二〇〇円であると認められるので、原告が本件事故により右障害を負わなければ、右稼働可能な四九年間を通じて毎年右平均給与額を下らない収入を得ることができたものと推認されるから、これを基礎に右稼働能力喪失割合を乗じ、その額からライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して、右四九年間の逸失利益の症状固定時である昭和五八年二月当時(満八歳)の現価を求めると、その額は、次の計算のとおり一六九三万二六六四円(一円未満切捨)となる。

379万5200円×0.4×11.154≒1693万2664円

8  靴注文費 八〇万二三〇〇円

原告が特別注文による靴を使用して既に二二万七五〇〇円を支出したことは当事者間に争いなく、弁論の全趣旨と原告法定代理人藤田光子尋問の結果によると、原告は左足指切断のため将来とも特別注文の靴を使用することを必要とするところ、その費用としては年間三万円程度と認められるので、これを原告の余命六五年をもつて計算すると次のとおり五七万四八〇〇円となり、これを相当損害と認める。

3万円×19.160=57万4800円

9  将来の治療費

原告は、将来の治療費として一〇〇万円を請求するが、その治療の必要性と治療費を確定するに足りる証拠はないから、相当損害と認めることができない。

10  弁護士費用 一〇〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本訴の提起と追行を原告代理人に委任し、相当額の着手金を支払い、かつ相当額の報酬を支払う旨を約したことが推認されるが、原告の請求額、本件事案の内容、訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を総合すれば、弁護士費用として被告に支払を求めうる相当損害は、原告の主張する一〇〇万円を下らないものと認めるのが相当である。

11  過失相殺

被告は、本件事故の発生に関し原告にも過失があつた旨主張するが、成立に争いない乙第一ないし第四号証の記載によれば、原告は、横断歩道上を青信号にしたがつて横断していて本件事故にあつたのであるから、この事故の態様と、原告の年齢等に照らすと、原告に格別の過失があつたということができず、被告の過失相殺の主張は採用することができない。

12  損害のてん補 九四五万〇七五六円

原告が本件事故により被つた損害のてん補として被告から九四五万〇七五六円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

三  以上のとおり、原告の前記二の1ないし8及び10の損害合計は二六七七万三四〇〇円であるところ、これから前記二の12の損害てん補額九四五万〇七五六円を控除すると残損害額は一七三二万二六四四円となるから、原告の本訴請求は、被告に対し右一七三二万二六四四円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年二月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるからこれを認容するが、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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